自宅でお看取りすることとは?訪問看護師の体験談

介護

こんにちは!訪問看護師のぴぽんです。

 

人生最期の時を、住み慣れたご自宅で過ごしたいという方はとても多いと思います。

実際に余命宣告後、ご自宅に帰られてから少しの間元気を取り戻し、車いすで遠出された方もいます。

 

ご家族もご本人の意向に沿いたい気持ちはありますが、不安でいっぱいですよね。

今回は最期の時を迎えるご様子やケアの方法を、私の体験を踏まえてご紹介します。

 

日本では「死」に対する話題がタブー視されやすいです。そのため人生最期の時をどのように過ごすのか普段から家族間で話し合う機会がなく、いざ家族が決断を迫られたとき大きなプレッシャーになることが多々あります。この記事ではそのような流れを変えるために「死」という言葉を伏せずに使用しておりますので、ご了承ください。

 

 

 

終末期医療 ‐人生の最終段階におけるケア‐ とは?

癌などの病気が進行し、死を迎えることが予測される状態のことを指します。終末「期」とありますが、実際に旅立ちまでの期間を予測することは難しく、余命1カ月と診断されご自宅に帰られた方が、3か月後にお亡くなりになったということもあります。

以前は「終末期医療」と呼んでいましたが、2015年に厚生労働省が「人生の最終段階における医療」と呼び変える動きがありました。「身体的」な終末ではなく、個人の「人生」にフォーカスした背景があるようです。

現在最期の時を自宅で過ごしたいと思う方は、60代から80代だと約60%にもなります。また、最も避けたい場所は「子の家」だそうです。
(出典:日本財団

その理由としては、「住み慣れた場所で落ち着くから」、「家族を感じる場所だから」と、リラックスや孤独を和らげてくれることがメリットと感じられるようです。

 

 

 

お亡くなりになる前のご様子の変化

では、実際にどのような身体の変化が起きていくのでしょうか。多くの方に起きる変化をみていきましょう。

 

眠っている時間が長くなる

旅立ちの時が近づいてくると、ベッドに横になり眠っている時間が多くなります。ほぼ1日寝ていることもあります。

 

飲食が減る

身体の変化で食べたり飲んだりすることが減ってきます。これは、入ってきた栄養をうまく消費できずにいるためです。食べたり飲んだりせずにいると、死期が早まるということはありません。逆に入ってきた栄養や水分を消費しきれず、むくみなどの原因になってしまいます。

欲しがるときはもちろんあげてください。冷たいアイスなど食べていらっしゃる方が多かったです。

 

会話がちぐはぐになり、暴れることがある

いわゆる「せん妄」(せんもう)という状態です。酸素が少なかったり、体の中の有害物質が処理しきれず、脳に影響を与えている状態です。

普段寝たきりなのに、ふらふらと歩いたり、点滴をしている方は点滴を引っ張ってしまうこともあります。大声でずっと叫んでいることもあります。

ご家族もこれを見ているのが辛いですよね。

危ないことがなければ、そばで見守っていてください。

また、せん妄に対してお薬が出ている場合は、医師・看護師の指示に従い使用してください。薬剤が命を縮めることはありません。

点滴や管(尿道カテーテルなど)が抜けた場合、訪問看護や訪問診療によっては夜間でも対応してくれる所はありますが、多くは翌朝まで様子をみても大丈夫な場合が多いです。遠慮なくご契約中の訪問診療・訪問看護に聞いてみてくださいね。

 

不規則な呼吸

「すーすー」とした穏やかな呼吸ではなく、早い呼吸の後徐々に遅くなること、または呼吸が止まるようなこともあります。また、口をパクパク動かして喘いでいるようにみえる場合があります。これは苦しいのではなく、筋肉の動きでそのように見えるだけです。この呼吸がみられると、お亡くなりまで数時間であることが多いです。

また、溜まっただ液が処理できず、喉元でゴロゴロとしていることもあります。吸引(機械で痰やだ液を吸う行為)は苦痛を伴いますので、最小限に。綿棒などで拭ってあげるといいですよ。

 

失禁しやすくなる

身体の機能が落ちてくると肛門の力も落ちてきて、お通じが漏れやすくなります。お通じが長時間皮膚にくっついてしまうと、かぶれの原因になるのでご家族の無理のない範囲でおむつの交換をしてください。

おむつパッドを使用すると、交換が楽ですよ。

おすすめのおむつパッドはこちらの記事からどうぞ。【介護初心者に知ってもらいたい】介護負担を少し楽にする便利グッズ!

 

おしっこの量が減る

飲む量が減るため出る量も減るのですが、心臓や腎臓が衰えると水分を体の外に排出する機能も落ちてしまいます。

おしっこの量が減り色も濃いというのは、いわゆる脱水の状態です。しかし、上記のとおり身体の機能が落ちているため、少し脱水のほうが身体的には楽なのです。

脱水や栄養不足での点滴は、かえって身体がしんどくなるため、あまりおすすめしません。

 

 

でもやっぱり家で看取るのは不安…家族からの質問

ご家族の様子が変化していく中で、何をしてあげたらいいか分からないという声をよく聞きます。

私が訪問看護をしている時に、実際に聞かれた質問をまとめてみました。

 

勝手に身体に触って、どうにかなったらどうしよう

身体に触れたからといって容体が変化することは、滅多にないです。

安心して、手を握ったり、お身体を拭いてあげたりしてください。足のマッサージなどはよく喜ばれました。

なんて声をかけていいか分からない

無理に声をかける必要はありません。「おはよう」や「おやすみ」などの挨拶からでかまいません。実際に患者様から、普段通り生活している家族の気配を感じると、安心につながるというお声を聞いたことがあります。

 

麻薬なんて使ったら、死期が早まるんじゃないか

せん妄の部分でも触れましたが、薬剤で死期が早まることはありません。

用法・用量を守り使用すれば、苦痛が和らぎます。

眠る時間は増えるかもしれませんが、「耳は最期まで聞こえる」という言葉もありますので、積極的に声をかけてあげてください。

 

夜も起きてしっかり見ていないとだめですよね?

夜にケアが必要な方もいますが、ご本人が眠っている時はどうぞご家族も眠ってください。

夜眠れなければ、訪問看護や訪問介護が来ている間少しでも身体を横にしてください。

頑張り屋さんなご家族が多く、訪問者が来たときは側についてくださる方も多いのですが休んで頂いて大丈夫です。ご家族の心身も、とても大切にしなければなりません。

看護師に聞きたいことがあれば、ノートやメモに書いておいて頂ければお答えできますよ。

なんか変だと思ったら、救急車呼んだほうがいいんですよね?

救急車ではなく、ご契約中の訪問看護または、訪問診療へ連絡してください。

お看取りの方だと、救急車を呼んでも何もできることはありません。無理な治療はご本人を苦痛にする可能性があります。

「いつもと様子が違う」と感じたら、まずは看護師、医師に相談してみましょう。

 

お世話をするのが辛いんです。こんなこと思ったらダメですよね。

そんなことはありません。

ご自宅でのお看取りは、心身ともにとても疲れるものです。ストレスも溜まると思います。

このような感情が生まれるのは当然のことです。

疲労が溜まってきたときは、ご契約中の訪問看護師やケアマネージャーにご相談ください。公的サービスをうまく利用してご家族の休める時間を作りましょう。

 

 

ぴぽんが忘れられない利用者さん

最後に私が忘れられない利用者さんとのエピソードをご紹介します。

 

訪問看護を始めて、2年くらい経った時でした。

80代の男性で大腸がんの末期、ご自宅でお看取りの依頼がありました。(Aさんとします)

Aさんは奥様と二人暮らし。生活保護を受給されていました。

食事があまり摂れず、歩くときにふらつくとの情報通り、退院直後はトイレも奥様が肩を貸して行かれていました。

奥様は小柄な方で腰が悪い方だったので、支えるのも一苦労でした。

Aさんはお風呂が好きで、訪問看護のケアはほとんどが入浴のお手伝いでした。

退院し1カ月くらい経つと、もうご自身でトイレや入浴ができるようになりました。最初のふらつきはどこへ行ったのか、よく家の前のパチンコに行き楽しんでいたようです。訪問看護も「玉が出てて動けねぇ」と、当日キャンセルが2回ありました(笑)

Aさんは訪問診療が月2回、訪問看護が週2回、訪問リハビリは週1回のプランでした。

退院直後の様子からずいぶん元気になられて、関係者はびっくりしていました。

しかし、癌は進行しており徐々にベッドに横になっている時間が増えてきました。

食事もほぼとれず、毎日アイスやゼリーなどを数口食べるくらいでした。

もちろんトイレには行けないので奥様がおむつの交換をするのですが、前述のとおり小柄で腰痛持ちの奥様には辛いケアでした。

そこでケアマネージャーは訪問介護を導入し、排泄や清潔ケアをしてもらうことにしました。

すると今度は夜にAさんが起き上がって徘徊したり、大声を出すようになりました。

訪問看護の夜間専用の電話には、毎日奥様から「もう辛い」「どうしていいか分からない」と電話がありました。時には私たちも夜間に訪問しましたが、毎回というわけにはいきません。

奥様、ケアマネージャーや訪問介護、訪問診療など担当者と会議をおこない、緩和ケア病棟への入院申し込みをしようという話になりました。

この頃Aさんは日中ほぼ眠っていることが多かったですが、起きている時に「入院の準備しますね」と声をかけると「うん」と頷いていました。

 

しかし、緩和ケア病棟も申し込みから入院できるまで1カ月ほどかかります。

その間もおうちで過ごされていましたが、Aさんはだんだんと眠っている時間が長くなりました。

もう2-3日食事も水分も摂れておらず、おしっこもほぼ出ていませんでした。

私たちは奥様に残された時間は少ないことをお伝えしました。

「そうか。お父さんもうおうちにいようね。」と、奥様。

 

そして、冬の深夜。その日はたまたま私が夜間の電話番でした。

「ぴぽんさん、お父さん息してない!見に来て!」

急いで向かうとAさんの2人の娘様も到着されていました。

Aさんは、息を引き取っていました。

訪問診療の先生に連絡し死亡診断され、ご臨終となりました。

 

その後Aさんのお身体をきれいに拭いたり、お着替えのお手伝いをさせてもらいました。

その時奥様が、話してくださいました。

「ぴぽんさん、お父さんおうちに居させてあげられてよかったよ。うめき声が聞こえたから私も起きてさ、お父さん見たら口をパクパクさせてるのよ。あぁこれはもうダメだなって思って娘呼んだの。娘たちは間に合わなかったけど、最後すぅーって息吐いてそのまま止まっちゃった。でも最期一人じゃなくて、文字通り私が看取ったんだなって思うと、今までの辛かったこともがんばれてよかったって思うの。」

奥様が慣れない介護をとても頑張っている姿を私たちは見ていたので、この言葉を聞いて私も涙が止まらなくなりました。
私たちこそ、関わらせてくれてありがとうとお礼を伝え、退出しました。

まとめ

Aさんの場合、ご自宅での円満なお看取りのケースだと私は思っています。
もちろん全てのお看取りが、このように終わるわけではありません。
すごくがんばって介護されても、お亡くなりになった後の後悔はなにかしらあるでしょうし、亡くなった消失感は計り知れません。
しかし、「ご自宅で最期を迎えたい」という希望は叶えられます。
そのお手伝いは私たち訪問看護や訪問介護、訪問診療の先生や相談員の方などたくさんの人たちが行います。
この記事が、ご自宅で看取りを迷われている方、現在おうちで介護をされている方のお役に立てればと思います。
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